日本のカレンダー(暦)には、季節の移り変わりを知らせる「雑節(ざっせつ)」という言葉がいくつかあります。
節分や彼岸が有名ですが、9月の初めに巡ってくる「二百十日」もその一つです。
「名前は聞いたことがあるけれど、具体的にいつ?」
「夏目漱石の小説に関係があるの?」
「台風が来る日って本当?」
この言葉には、古くから自然災害と向き合ってきた日本人の知恵と、文学的な趣(おもむき)の両方が込められています。
今回は、二百十日の正確な意味や読み方、2026年の日付から、台風との関係、そして夏目漱石の名作まで、この日にまつわる知識を網羅的に解説します。
1. 二百十日とは?読み方と意味の基礎知識
まずは、言葉の基本的な意味と読み方から確認していきましょう。
読み方は「にひゃくとおか」
二百十日は、そのまま「にひゃくとおか」と読みます。
「にひゃくじゅうにち」と読んでしまいそうになりますが、暦の言葉としては「とおか」と読むのが正解です。
立春から数えて210日目のこと
二百十日とは、その名の通り「立春(りっしゅん)から数えて210日目」の日を指します。
立春(2月4日頃)を1日目としてカウントし、210日経過した日がこの日に当たります。
季節で言えば秋の始まり。稲が花を咲かせ、実り始める非常に重要な時期ですが、同時に農家にとっては最も警戒すべき時期でもありました。
2. 【2026年版】今年の二百十日はいつ?
二百十日は固定された日付(〇月〇日)ではありません。立春の日付が年によって微妙に変わるため、二百十日も変動します。
2026年(令和8年)は9月1日
では、2026年の二百十日はいつになるのでしょうか。
9月1日(火)です。
ここ数年の傾向を見ても、おおよそ9月1日か9月2日のどちらかになります。
2026年は平年(うるう年ではない)であり、立春が2月4日であるため、計算上9月1日となります。
防災の日と重なることが多い
9月1日といえば「防災の日(関東大震災の起きた日)」です。
偶然にも、台風を警戒する「二百十日」と、地震への備えを見直す「防災の日」が重なることが多いため、9月1日は日本で最も「災害への意識を高めるべき日」と言えるでしょう。
3. なぜ「台風の厄日」と言われるのか?
二百十日は、暦の上では「雑節」ですが、実質的には「台風の特異日(とくいび)」として恐れられてきました。
なぜこの日がピンポイントで注目されるのでしょうか。
農家の三大厄日
昔から農家の間では、以下の3つの日が「三大厄日」として伝えられています。
- 八朔(はっさく):旧暦8月1日(現在の8月下旬〜9月上旬頃)
- 二百十日(にひゃくとおか):立春から210日目(9月1日頃)
- 二百二十日(にひゃくはつか):立春から220日目(9月11日頃)
この時期は、ちょうど稲が開花するタイミングです。
この時期に強い台風が来て強風に吹かれると、稲の花が散ってしまったり、稲が倒れてしまったりして、その年の収穫が台無しになってしまいます。
統計的に見ても、8月から9月は台風の接近・上陸数が最も多いシーズンです。
昔の人は、立春から日数を数えることで「もうすぐ台風シーズンだ、警戒しろ!」とカレンダーにアラートを仕込んでいたのです。これが二百十日の正体です。
現代でも警戒は必要?
現代の気象データで見ても、9月1日周辺は台風の発生確率が高い時期です。
「二百十日の風」という言葉があるように、この前後は海が荒れ、天候が急変しやすい時期であることに変わりはありません。
ハザードマップの確認や、備蓄食料のチェックを行う良いきっかけにしてください。
4. 文学と二百十日:夏目漱石の小説
「二百十日」という言葉を有名にした要因の一つに、文豪・夏目漱石の存在があります。
検索キーワードでも「二百十日 夏目漱石」と調べる人が多い、隠れた名作について解説します。
小説『二百十日』のあらすじ
夏目漱石には、そのものズバリ『二百十日』というタイトルの小説があります(1906年発表)。
物語の舞台は、熊本県の阿蘇山。
豆腐屋の息子である「圭さん」と、その友人「碌(ろく)さん」の二人が、阿蘇山への登山を試みる話です。
二人は意気揚々と山に登ろうとしますが、ちょうどその日は二百十日。猛烈な嵐(台風)に巻き込まれ、道に迷い、散々な目に遭いながら下山することになります。
漱石が描きたかったもの
この作品は、『草枕』と同時期に書かれたもので、文明批判や社会への不満を、二人の軽妙な会話を通して描いています。
「二百十日の嵐」は、単なる天候としてだけでなく、「世の中の荒波」や「変革のエネルギー」の象徴として描かれているとも読み取れます。
長さも短編〜中編程度で読みやすいため、秋の夜長に「嵐の描写」を味わってみてはいかがでしょうか。青空文庫などで無料で読むことができます。
5. 俳句における「二百十日」
日本人の美意識は、荒れる天気の中にさえ季節感を見出します。
二百十日は、俳句において「秋の季語」として定着しています。
季語としての特徴
俳句の世界では、二百十日は単に日付を指すだけでなく、「台風が来そうな不穏な空気」「嵐への警戒」「農家の不安」といった情景を含んだ言葉として使われます。
【有名な俳句の例】
二百十日 腹の立つ日も ありにけり(村上鬼城)
荒れる天候と、自分の心の中で荒れる感情(怒り)を重ね合わせた、人間味あふれる一句です。
音立てて 二百十日の 雨と風(高浜虚子)
こちらはシンプルに、自然の猛威を描写した句です。
もしこの時期に俳句を詠むなら、「風」「揺れる稲穂」「戸締まり」といった言葉と組み合わせると、二百十日らしい情緒が生まれます。
6. 「二百十日」を英語で説明するには?
海外の方に日本の季節感を説明する際、二百十日はどう表現すればよいでしょうか。
直訳と、意味を伝えるためのフレーズを紹介します。
直訳表現
- The 210th day (from the first day of spring)
- Nihyaku-toka
意味を伝えるフレーズ
単に「210日目」と言っても伝わらないため、以下のように補足すると親切です。
It is a specific day on the traditional Japanese calendar that marks the typhoon season.
(それは日本の伝統的な暦の特定の日で、台風シーズンの到来を示します。)
Traditionally, farmers have feared this day because typhoons can damage the rice harvest.
(伝統的に、農家はこの日を恐れてきました。台風が米の収穫に被害を与える可能性があるからです。)
7. まとめ:二百十日は「備え」と「風情」の日
二百十日について、様々な角度から解説してきました。最後に要点をまとめます。
二百十日のポイント
- いつ?:立春から数えて210日目。2026年は9月1日。
- 意味:稲の開花時期に重なる、台風到来の特異日(厄日)。
- 文学:夏目漱石が阿蘇山の嵐を描いた小説『二百十日』がある。
- 文化:俳句では秋の季語。荒れる天気や不安を表す。
- 現代の過ごし方:防災グッズの点検や、家の周りの台風対策を行う日にする。
現代では天気予報の精度が上がり、「暦で台風を知る」必要はなくなりました。
しかし、「二百十日」という言葉が残っていること自体が、自然と共に生きてきた日本人の歴史そのものです。
今年の9月1日は、空を見上げて風を感じながら、先人たちの苦労に思いを馳せたり、漱石の小説を読んだりしてみてはいかがでしょうか。
もちろん、万が一の台風への備えもしっかり行った上で、安全に秋の訪れを楽しみましょう。


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