毎年1月7日に日本では、「七草粥」を食べる習慣があります。これは単なる食事ではなく、新年を健やかに過ごすための願いが込められた伝統的な料理です。
七草粥の由来と歴史
七草がゆの起源は、中国の6世紀の古典『荊楚歳時記』にさかのぼります。ここでは、正月七日に七種の野菜を使った汁物を食べる習慣が記述されています。この風習は日本に伝わり、平安時代にはすでに行われていたことが文献で確認されています。
江戸時代には、新年の豊作を願う「薺打ち」という行事も行われ、七草がゆが食されていました。この風習は現在も中国に残っており、七種の食材を食べることで健康を願うとされています。
農文協が出版した『日本の食生活全集』によると、七草粥は大正から昭和初期にかけての時代にも食されていたと記録されています。
七草粥と人日の節句
七草粥は、無病息災を願うための食べ物です。また、お正月の豪華な食事で疲れた胃腸を休めるためにも適しています。寒い冬に収穫可能な七草は、昔から栄養豊富な健康食材として価値がありました。
この習慣は、中国の「人日の節句」という日(1月7日)に起源を持ち、無病息災を願い「七種菜羹」と呼ばれる7種の野菜のスープを食べる風習がありました。日本では、平安時代の「若菜摘み」という遊びと結びつき、現在の七草粥の習慣に発展したと考えられています。
人日の由来:古代中国から現代日本への伝統
人日(じんじつ)の由来は、古代中国にその起源を持ちます。この伝統は、中国の古典「荊楚歳時記」に記されており、日本の文化にも大きな影響を与えてきました。
古代中国の暦と習俗
「荊楚歳時記」によれば、古代中国では各日を特定の動物や象徴と関連付ける習慣がありました。1月の最初の7日間はそれぞれ、鶏、犬、羊、猪、牛、馬、そして人に捧げられていました。これらの日には、関連する動物を殺さないという決まりがあり、たとえば1月1日には鶏を、2日には犬を、そして7日には人を殺さない(処刑を行わない)とされていました。
1月7日は、「人日」として特に重要視され、この日には七種の若菜を用いた羹(あつもの、つまり温かいスープ)を食べる習慣がありました。これが、七草粥の原型となったと考えられています。
日本への伝来と五節句
江戸時代初期に、一條家がこの故事を取り入れ、現在の五節句の一つとして定めました。五節句は、季節の変わり目を祝い、自然と共生する日本の伝統的な生活様式を反映しています。その中でも人日は、新しい年の無病息災を祈る意味合いを持ち、七草粥を食べる習慣が日本全国に広まりました。
七草がゆの意味と作り方
七草がゆは、新年の祝膳やお酒で疲れた胃を休めるため、また無病息災を願って食べられます。伝統的には、春の七草(若菜)を使った塩味の粥で、これにはビタミンCなどの栄養が豊富に含まれています。
七草粥の準備
1月6日の夜、日本各地でセリ、ナズナ、ゴギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、スズナ、スズシロの「七草」を用意します。これらはまな板の上でしゃもじやお玉杓子、包丁の背などを使って細かく刻まれます。この作業は、以下のような歌を歌いながら行われることが多いです。
七草なずな 唐土の鳥が 日本の国に 渡らぬ先に ストトントン
翌朝、この七草を粥に入れて炊き、塩を加えて七草粥を作ります。これを朝食として食べることで、新年を健康に過ごす願いを込めます。
七草粥は地方によって食べ方が違う
七草粥の伝統は、地域によって様々な形で表れます。例えば、東北地方では、気候や降雪の関係で七草が手に入らないことが多く、代わりに他の具材を使用します。山形県では納豆汁や七草汁が食べられ、最上川流域では新米の握り飯を使った独特の七草粥が作られます。一方、青森県や秋田県では1月7日ではなく、1月16日の小正月に根菜をふんだんに使った「けの汁」を作ります。
九州南部では鶏肉を加えることがあり、南西諸島では塩豚を具に使います。また、地域によっては白粥だけでなく、鰹節で出汁を取り醤油や味噌で味付けした雑炊にすることもあります。四国の瀬戸内海沿岸では和え物やお浸しで七草を食べ、九州北部では汁物に加工することもあります。
七草粥はいつ食べる?
日本の新年の伝統として知られる七草粥。多くの方が実家で食べた記憶はあっても、いつ食べるべきか具体的に知らない方もいるかもしれません。ここでは七草粥を食べるべき日付とその意味について詳しく解説します。
一般的には1月7日
七草粥は、伝統的に1月7日に食べます。この習慣は中国の「節句」という概念から来ていると言われています。新年の祝いも落ち着き、日常が再開するこの時期に、七草粥を食べて無病息災を祈ります。
8日以降に食べても大丈夫?
もし1月7日に忙しくて食べられなかった場合、翌日の1月8日に食べても構いません。ただし、七草が手に入らなくなるという実用的な問題があるので、遅くともその週末までには食べるのが良いでしょう。
七草粥は朝食が一般的
七草粥は、特に朝食として食べるのが伝統的です。消化に優しいお粥は、朝の食事にぴったりです。しかし、食べる時間に厳密な規定はありませんので、ライフスタイルに合わせて昼食や夕食に食べても良いでしょう。
七草草子のお話、七草粥で若返り!
昔々、遠い遠い唐の国に「大しう」という名の親孝行な若者がいました。大しうの両親はもう百歳を超え、体が弱っていました。大しうは両親のことをとても心配し、彼らのために何かできないかと考えました。
ある日、大しうは決心しました。「私が老いを受けるので、どうか両親を若返らせてください」という願いを込めて、山に入り、21日間の厳しい苦行を行いました。そして、祈り続けました。
すると、天上から帝釈天が現れ、「そなたの願いを叶えよう」とお告げしました。帝釈天は秘術を教えてくれました。「春の初めに、7種類の特別な草を集めなさい。そして、決まった時刻にそれらを柳で作った器に載せ、玉椿の枝で叩いて、東から汲んだ清水で煮て食べるのです。そうすれば、一口で10歳、七口で70歳も若返ることができますよ」と。
大しうは早速、7種類の草を集め、教えられた通りに草を叩き、煮ました。朝になり、その粥を両親に食べさせると、驚くことに両親はたちまち若返りました。この奇跡の話はすぐに広まり、皇帝も大しうの親孝行に感動し、彼に位を譲りました。
そして、このお話は世に広まり、七草がゆを食べる習慣となったのです。このお話は、親への深い愛と親孝行の大切さを教えてくれます。そして今も、1月7日には、家族みんなで七草がゆを食べて、健康と幸せを願うのです。
春の七草
春の訪れと共に、七草粥に使用される春の七草を詳しく紹介します。これらの草花は、日本の伝統的な行事食である七草粥に欠かせないものです。
1. セリ (Water Dropwort)
日本原産の多年草で、その独特の香りが特徴的です。伝統的に解熱や解毒作用があるとされており、また「セリ」という名前は「競り勝つ」という意味合いを持ち、縁起が良いとされています。
2. ナズナ (Shepherd’s Purse)
ハート形の小さな葉が特徴のナズナは、「ぺんぺん草」とも呼ばれます。若葉にはミネラルが豊富に含まれ、健康効果が期待されています。
3. ゴギョウ (Jersey Cudweed)
黄色い花を咲かせるハハコグサ(母子草)としても知られる越年草です。昔から咳やのどの炎症に効果があるとされ、田んぼなどの水辺でよく見かけます。
4. ハコベラ (Common Chickweed)
ユーラシア原産で、柔らかい食感が特徴の越年草です。利尿作用があり、むくみに効果があるとされています。繁栄を意味する名前から縁起も良いとされています。
5. ホトケノザ (Henbit Deadnettle)
コオニタビラコというキク科の植物が、七草粥におけるホトケノザとして使用されます。シソ科のホトケノザとは異なり、この植物は食用に適しています。「仏様が座る場所」という名前は縁起が良いとされます。
6. スズナ (Turnip)
カブを指すスズナは、ビタミンCやカルシウム、カリウムを豊富に含んでおり、健康に非常に良い野菜です。「神様を呼ぶ鈴」という意味があり、七草粥では特に重要な存在です。
7. スズシロ (Radish)
ダイコンを指すスズシロは、ビタミンAやビタミンCを多く含み、消化を助ける酵素も豊富です。七草粥では、小さめのサイズが一般的に使用されます。
夏の七草・秋の七草・冬の七草
日本には、春の七草に限らず、夏、秋、冬にもそれぞれ七草が存在します。これらの七草は、日本の四季の変化を象徴し、文化や詩歌にも大きく影響を与えてきました。ここでは、それぞれの季節の七草を詳しく紹介します。
夏の七草
- ヨシ:水辺に生える植物で、日本の風景を象徴する存在です。
- イグサ:畳の材料としても知られ、涼しげな香りが特徴です。
- オモダカ:水生植物で、独特の形が美しいです。
- ヒツジグサ:白い花を咲かせる水辺の植物です。
- ハス:泥の中から美しい花を咲かせ、浄化の象徴とされます。
- コウホネ:湿地に生える草花で、細長い葉が特徴です。
- サギソウ:鷺に似た形の花を咲かせ、日本の夏を彩ります。
秋の七草
- ハギ:秋の訪れを告げる代表的な花です。
- ススキ:日本の秋の情緒を象徴する草花です。
- ナデシコ:可憐な花を咲かせ、愛らしさの象徴です。
- フジバカマ:秋の野を彩る美しい花です。
- キキョウ:清楚な美しさを持ち、秋の七草の代表格です。
- クズ:早秋に紫色の花を咲かせます。
- オミナエシ:秋の野に黄色い花を咲かせる草花です。
冬の七草
- ダイコン:冬野菜の代表格で、栄養豊富です。
- ネギ:風邪予防にも良いとされる健康野菜です。
- ハクサイ:様々な料理に使われる冬の主役です。
- ホウレンソウ:鉄分が豊富で、栄養価が高いです。
- シュンギク:独特の香りが特徴の葉物野菜です。
- キャベツ:ビタミンCが豊富で、様々な料理に活用されます。
- コマツナ:冬に収穫される、ビタミン豊富な葉物野菜です。
また、冬の七草には、ニンジン、ナンキン(カボチャ)、レンコン、ギンナン、キンカン、ウンドン(うどん)、カンテン(寒天)という「運が重なる」という意味合いを持つ食材もあります。これらは冬至の日に食べられる「冬至の七種」として親しまれています。
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