新年を迎え、お正月の締めくくりとして行われる日本の伝統行事「鏡開き」。
無病息災や家内安全を願う大切な儀式ですが、実はこの鏡開きには、古くから伝わる「絶対にやってはいけないこと(禁止事項)」が存在することをご存知でしょうか?
「良かれと思ってやったことが、実は縁起が悪かった……」
「知らず知らずのうちに神様に失礼なことをしていた……」
そんな事態を避けるためにも、正しい知識と作法を身につけておくことが大切です。特に、近年では真空パックの鏡餅が主流となり、伝統的な作法が忘れられがちです。
この記事では、鏡開きでやってはいけない5つのタブーを中心に、2026年の正確な日程、地域による違い、固くなったお餅の簡単な開き方、さらにはカビが生えてしまった時の対処法や美味しいレシピまで、鏡開きに関する情報を網羅的に解説します。
年神様(としがみさま)のパワーを余すところなく受け取り、幸運な2026年をスタートさせましょう。
鏡開きで絶対に「やってはいけないこと」5選
鏡開きは単なる「お餅を食べる日」ではありません。お正月の間に家に滞在してくださった年神様をお送りし、その力が宿ったお餅をいただくことで、新しい生命力を授かる神聖な儀式です。
そのため、神様に対して失礼にあたる行為や、縁起の悪い行為は厳禁とされています。具体的に何がNGなのか、詳しく見ていきましょう。
鏡開きで「やってはいけないこと」1. 刃物(包丁)を使って切る
鏡開きにおいて最も有名なタブーがこれです。固くなった鏡餅を分ける際、ついつい包丁を使いたくなりますが、これは絶対にNGです。
【理由】
鏡開きのルーツは武家社会にあります。武士にとって刃物は武器であり、神聖な供物である鏡餅に刃を向けることは、敵を切る行為や、あるいは「切腹」を連想させるため、非常に縁起が悪いとされてきました。
また、神様の依り代(よりしろ=神様の居場所)に刃物を入れること自体が、神様を傷つける行為とみなされ、不敬にあたると考えられています。
【正しい作法】
木槌(きづち)や金槌で叩いて割るか、手でちぎりましょう。どうしても固い場合は、後述する「水に浸す方法」や「電子レンジ」を活用してください。
鏡開きで「やってはいけないこと」2. 「割る」という言葉を使う
作業としてはお餅を細かく砕くのですが、それを表現する際に「鏡餅を割る」と言うのは避けましょう。
【理由】
日本には「言霊(ことだま)」という信仰があり、言葉には力が宿るとされています。「割る」という言葉は、「壊れる」「別れる」「離れる」といったネガティブな事象を連想させる「忌み言葉」です。特にお祝い事や神事の場では嫌われます。
【正しい作法】
末広がりで縁起が良いとされる「開く」という言葉を使います。「運を開く」「道を切り開く」といったポジティブな意味が込められています。これが「鏡開き」という名前の由来でもあります。
鏡開きで「やってはいけないこと」3. 食べずに捨てる・残す
「飾り終わったからゴミとして出す」「カビが生えてしまったから捨てる」「硬くて美味しくなさそうだから食べない」……これらは、鏡開きの本来の意味を損なう行為です。
【理由】
鏡餅にお招きした年神様の霊力は、お供えしている間に鏡餅に移ります。そのお餅を体の中に取り入れる(食べる)ことで初めて、私たちは神様の力を授かり、一年の無病息災を得ることができるのです。
つまり、お供えするだけでは片手落ち。最後に食べてこそ、鏡開きという行事が完結します。食べずに捨ててしまうのは、神様の力を捨ててしまうのと同じことなのです。
【正しい作法】
小さなかけら(欠片)ひとつ残さず、全て料理していただきましょう。細かすぎる破片は、油で揚げて「あられ」にすると美味しくいただけます。
鏡開きで「やってはいけないこと」4. 鏡開きの日より前に食べる
「お餅が好きだから」「お腹が空いたから」といって、松の内(お正月の期間)に鏡餅を食べてしまうのはマナー違反です。
【理由】
松の内の期間中、年神様は鏡餅を依り代として家の中に滞在されています。つまり、鏡餅は「神様の座席」のようなものです。神様がいらっしゃる間にその座席を食べてしまうのは、神様を追い出すことになりかねません。
【正しい作法】
地域ごとの「松の内」が明けるのを待ち、年神様がお帰りになった後に鏡開きを行いましょう。
鏡開きで「やってはいけないこと」5. 食べきれずに放置する
意外とやってしまいがちなのが、「鏡開きはしたけれど、全部食べきれずに冷蔵庫の奥でカビさせてしまう」というパターンです。
【理由】
「3. 食べずに捨てる」と同様、最終的に食べなければ意味がありません。また、神様が宿っていたものを粗末に扱うことにもつながります。
【正しい作法】
鏡開きの当日にすべて食べる必要はありませんが、なるべく早く消費できるよう、冷凍保存を活用したり、家族みんなで協力して食べきる工夫をしましょう。
2026年(令和8年)の鏡開きはいつ?地域別の違いを完全網羅
「鏡開きは1月11日」と覚えている方が多いですが、実はお住まいの地域によって日程が異なる場合があります。2026年の正確な日程を確認しておきましょう。
【関東・全国一般】2026年1月11日(日)
東京を中心とする関東地方や、東北、九州の一部など、全国的に最も一般的な鏡開きの日です。
2026年の1月11日は日曜日ですので、家族揃って行事を行いやすい日取りと言えるでしょう。
なぜ1月11日になったのか?
かつて江戸時代の初期までは、「二十日正月」といって1月20日に鏡開きを行っていました。
しかし、徳川三代将軍・徳川家光が慶安4年4月20日に亡くなったため、月命日である20日を祝うのは避けるべきだとされました。そこで、「松の内(1月7日まで)」が明けた後の最初の日付として、1並びで縁起の良い1月11日に変更されたと言われています。
【関西・四国など】2026年1月15日(木)または1月20日(火)
京都や大阪を中心とする関西地方では、松の内を「1月15日(小正月)まで」とする習慣が根強く残っています。
そのため、鏡開きも松の内が明けた1月15日、あるいは旧来の伝統を守って1月20日に行う地域が多いです。
特に京都では、「三が日」を祝ったあと、4日に鏡開きを行う(神棚の鏡餅を下ろす)という特殊な風習を持つ地域や家庭もありますが、一般的には15日や20日が目安となります。
転勤などで地域の風習がわからない場合は、「1月11日」に行うのが無難です。現在では全国的に11日に行うケースが増えています。大切なのは日付の厳密さよりも、「神様に感謝していただく」という気持ちです。
そもそも「鏡開き」とは?意外と知らない深い意味と由来
ここでは、子供や家族に説明できるように、鏡開きの本来の意味や由来について少し深掘りしてみましょう。
「鏡」=円満と神様のシンボル
なぜ「鏡」餅と呼ぶのでしょうか?
昔の鏡は青銅製で円形をしており、三種の神器の一つとして神聖視されていました。丸い形は「家庭円満」を表し、重ねた姿は「福徳が重なる(良いことが重なる)」ことを意味します。
お正月に飾る鏡餅は、年神様へのお供え物であると同時に、年神様が宿る「依り代」そのものなのです。
武士の「具足祝い」と町人の「蔵開き」
鏡開きの行事としてのルーツは、室町時代の武士の風習「具足祝い(ぐそくいわい)」にあるとされています。
武士たちは新年に、兜や鎧(具足)の前に鏡餅を供え、1月20日になるとそれを下げて、雑煮などにして食べ、武運長久を祈りました。
一方、商家では「蔵開き」といって、新年の商売を始める際に鏡餅を食べて商売繁盛を祈りました。農村では「田打ち正月」として豊作を祈願しました。
このように、身分や職業に関わらず、新しい一年のスタートにあたり「力をつける」ための共通の儀式として定着していったのです。
「歯固め」の儀式としての側面
もう一つの重要な意味が「歯固め」です。
平安時代の宮中行事に由来し、固いものを食べて歯を丈夫にすることで、健康と長寿を願うものです。「年齢」の「齢(よわい)」という字に「歯」が含まれていることからも分かるように、昔の人は「丈夫な歯=長生きの秘訣」と考えていました。
固くなった鏡餅を食べることは、まさに歯を固め、生命力を高める行為だったのです。
カビが生えてしまったら?正しい対処法と捨て方
昔ながらの生の鏡餅を飾っていると、暖房の効いた室内ではどうしてもカビが生えてしまうことがあります。「カビたから捨てる」のは禁止事項ですが、かといってカビを食べるわけにはいきません。
カビの部分を削れば食べられる?
基本的には、表面のカビを深く削り取れば食べることは可能です。
餅のカビは表面から根を伸ばしますが、内部深くまで浸透するのには時間がかかります。明らかに全体が変色していたり、異臭がする場合は諦めるべきですが、表面にポツポツと生えた程度であれば、その部分を大きめに削り取ることで食べられます。
カビの削り方
- 水でふやかす前に削る: 餅を水につけるとカビの胞子が広がったり、餅が柔らかくなって削りにくくなります。必ず乾燥した状態で削りましょう。
- 道具を使う: 包丁ではなく、ピーラー(皮むき器)やナイフを使って、カビの周囲を含めて厚めに削ぎ落とします。
- 削りカスを徹底除去: 削った粉が残らないよう、最後は焼酎や食品用アルコールを含ませたキッチンペーパーで表面を拭き取ると安心です。
※ただし、カビ毒のリスクを完全にゼロにしたい場合や、免疫力の低いお年寄りや小さなお子様が食べる場合は、無理をせず処分することも検討してください。その際は、「食べられなくて申し訳ありません」と感謝と謝罪の気持ちを込めて、塩でお清めをしてから半紙に包んで処分しましょう。
最初からカビさせない裏技
来年のための豆知識として、カビを防ぐ方法も紹介します。
- 焼酎で拭く: 飾る前に、焼酎(アルコール度数35度以上)を含ませた布で餅の表面を拭く。
- わさびを使う: 鏡餅の下や後ろに、小皿に入れた「練りわさび」を置いておく(抗菌作用)。
- 個包装タイプを選ぶ: 最初から真空パックの鏡餅を選べば、カビの心配は無用です。
固い鏡餅も簡単!現代版・鏡開きのやり方
カチカチに乾燥した鏡餅を、女性の力でも簡単に開く方法をご紹介します。
【基本】木槌・金槌で叩く(伝統的方法)
- 鏡餅を半日ほど天日干しして、さらに乾燥させてヒビを入れやすくします。
- 新聞紙を広げ、鏡餅を清潔な布やビニール袋で包みます(破片の飛び散り防止)。
- 平らで安定した場所(コンクリートの上や、厚い木の板の上)に置きます。
- 木槌や金槌で、中心を避けて少し端の方を叩きます。一箇所にヒビが入れば、そこから崩れていきます。
【時短】水に浸して電子レンジ(現代的方法)
「叩くのは近所迷惑だし大変……」という方におすすめの方法です。
- 鏡餅をボウルに入れ、餅全体が浸かるまで水を入れます。
- そのまま一晩(数時間〜半日)置いて、餅に水分を含ませます。
- 耐熱容器に移し、ふんわりラップをかけて電子レンジ(600W)で2〜3分加熱します(大きさにより調整)。
- まだ芯が固いようなら、30秒ずつ追加熱します。
- 柔らかくなったら、手で一口大にちぎります。
※加熱しすぎるとドロドロに溶けてしまうので注意してください。少し芯が残るくらいで取り出し、余熱で柔らかくするのがコツです。
余ったお餅を美味しく消費!おすすめレシピ4選
鏡開きのお餅は、細かく砕かれているため、通常の四角い切り餅とは違った食感が楽しめます。定番からアレンジまで、美味しい食べ方をご紹介します。
1. お汁粉・ぜんざい(定番中の定番)
鏡開きの代名詞とも言えるメニュー。小豆の赤色には「魔除け(邪気払い)」の意味があり、一年の健康を願うのに最適です。
関西では「ぜんざい(粒あん)」、関東では「お汁粉(こしあん)」が主流ですが、お好みでどうぞ。焼いたお餅の香ばしさと、甘いあんこの相性は抜群です。
2. 揚げ餅・おかき(砕けた欠片に最適)
鏡開きで出た、小さすぎる欠片や粉状の部分を美味しく食べるならこれ一択です。
- 細かくなったお餅を、ザルなどに広げて数日間陰干しし、カラカラになるまで完全に乾燥させます(中途半端だと芯が残ります)。
- 170℃の油で、きつね色になるまで揚げます。乾燥していれば数秒でプクッと膨らみます。
- 熱いうちに塩、醤油、青のり、カレー粉、七味唐辛子などをまぶして完成。
サクサクの食感は、市販のお菓子にはない美味しさです。
3. 力(ちから)うどん・そば
お昼ご飯におすすめなのが、温かいうどんやそばにお餅を入れた「力うどん」。
焼いたお餅を乗せるのも良いですが、鏡開きのお餅なら、だし汁と一緒に少し煮込んで、とろっとした食感を楽しむのもおすすめです。
4. お餅グラタン・ピザ
和風の味に飽きたら、洋風アレンジもおすすめです。
グラタン皿にホワイトソース、茹でたマカロニ代わりのお餅、チーズを乗せて焼くだけ。お餅とチーズのとろける組み合わせは子供にも大人気です。
また、お餅を薄くスライスしてフライパンに並べ、ピザソースと具材を乗せて焼けば「もちピザ」になります。
よくある質問(Q&A)
最後に、鏡開きに関する素朴な疑問にお答えします。
- Q. 喪中の場合は鏡開きをしてもいいですか?
- A. はい、行っても問題ありません。
鏡餅は神道(神様)の行事であり、喪中(仏教の概念)であっても、神棚封じが解けた後や、忌明け(四十九日以降)であれば通常通り行います。
ただし、「おめでとうございます」という言葉は避け、「無病息災」を静かに願う形で行うのが一般的です。派手な飾り付けは控え、半紙などの白い紙を使うと良いでしょう。 - Q. 真空パックの鏡餅でもご利益はありますか?
- A. もちろんあります。
大切なのは形式ではなく、「年神様をお迎えし、感謝してお供えしたものをいただく」という心です。真空パックであっても、正しくお供えして、鏡開きの日に開封して食べれば、しっかりとご利益をいただけます。 - Q. 鏡餅を飾らなかった場合はどうすればいいですか?
- A. 普通のお餅を食べても大丈夫です。
鏡餅を飾っていなかったとしても、1月11日に「今年一年の健康」を願って、お汁粉などでお餅を食べることは良いことです。行事食として楽しみましょう。
まとめ:正しく鏡開きをして2026年の幸運を掴もう
いかがでしたでしょうか。最後に、鏡開きの重要なポイントをおさらいします。
鏡開きのポイントまとめ
- 日程:基本は1月11日(関西などは15日・20日)。
- 禁止事項:刃物は使わず「木槌」か「手」で開く。「割る」と言わず「開く」と言う。
- 重要事項:残さず全て食べきることで、神様の力を授かる。
- 楽しみ方:お汁粉、揚げ餅、雑煮など、好きな食べ方で家族団らんを楽しむ。
鏡開きは、お正月の締めくくりであると同時に、本格的な一年の活動開始を告げる行事でもあります。
正しい作法と言っても、現代では厳格すぎる必要はありません。大切なのは、家族の健康を願い、食べ物に感謝する心です。
2026年が皆様にとって、鏡餅のように「円満」で、笑顔の「開く」一年になりますように。ぜひ、美味しいお餅を食べて、素晴らしい一年のスタートを切ってください。



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